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日本国有鉄道研究家 blackcatの鉄道技術昔話

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2020年 11月 01日

2軸貨車、2段リンク改造のお話

国鉄における2段リンク化の歴史

国鉄の2段リンク化は、ヨンサントウのダイヤ改正から行われた、もしくはその数年前から準備されたと思われがちですが、実際には、昭和28年まで遡ることができます。
昭和27年11月に実施された走行実験の結果が良好であったことから、昭和28年に名古屋工場でワム23000形貨車を2段リンク化改造、ワム90000と形式を変更することになりました。
試験では後述しますが、85km/hでも安定した走行性能が確認されたそうで、その後新製車は2段リンク式で製造されることとなり、従来車についても改造を行うことになりましたが、改造は新製車と比べて手戻り工事が発生するため、新製の場合5万円程度のアップなのが25万(いずれも、昭和30年代の価格)と5倍違うため、改造工事は昭和34年を境に実質的に中止となってしまいました。
転機が訪れたのは、昭和40年で、ヨンサントウの改正で貨物列車自体の速度を上げることを目的に、二軸貨車の2段リンク改造が行われることとなり、廃車予定の車両及び、石炭車などは北海道・九州島内封じ込め、改造対象から外れる貨車に関しては黄帯を巻いてやるなどの措置が執られることとなりました。

2軸貨車と動揺の原因

昭和28年、国鉄鉄道技術研究所の車両運動研究所室長(松平技師)が2軸車自体は、蛇行動をしながら走行しており、ある一定の速度を超えると。その蛇行動が治まり、更に速度が高くなると再び蛇行動が始まる事が判ってると言われており。
最初に始まる蛇行動(車体が大きく左右に揺れる蛇行動)を第1次蛇行動、次に車体はあまり揺れないが輪軸が大きく揺れる第2次蛇行動が起こるとされています。
ただし、第1次蛇行動と第2次蛇行動の間にさほど揺れない部分があることが実験などで判明しているそうです。
2軸貨車、2段リンク改造のお話_a0091267_23120754.png
上記の図では
Kが車軸支える支持鋼性(部品や装置を支える部材の剛性、強い程安定するが、摩耗等による損耗を考慮する必要あり)
Vが限界速度を示しています。
Dが2次蛇行動の部分、Cが1次蛇行動の部分、A及びBが蛇行が抑制され安定して走れる部分になります。

昭和28年2月 交通技術 2軸貨車の高速化 P26 から引用

車軸を強く支持することで、第1次蛇行動は抑制できる反面、使用することで摩耗が生じやすくなるため、保守の手間が増えます。
そこで、第1次蛇行動に起こる速度を意図的に低めるには、車軸自体がある程度自由に動けるように敢えてしておく必要があるとして、下記のように書かれています。
再び、交通技術 2軸貨車の高速化から引用したいと思います。
上部安定範囲を使う方法では、輪軸の左右方向の支持剛性をできるだけ小さくすることが必要である。従来車の担バネの吊りリンクを改良して、ポギーにおける揺れ枕釣のような働きをするようにすればよく、この吊りンクの長さを長くすればする程支持剛性は小さくなる。但し輪軸は車体に対しそれだけ左右に変位を大きくするようになるから軸箱と軸箱守の左右方向の遊間を予め大きくしておかなければならない。
これにより、貨車の第1次蛇行動を低い速度で意図的に発生させることで、第2次蛇行動を比較的高い速度に持って行けるようにしたのです。
そのためには、車軸を貨車に固定させるのではなく、ある程度自由に動けるようにした支え装置を使うこととしました。
2軸貨車、2段リンク改造のお話_a0091267_11090930.png

引用 交通技術 昭和28年2月号 P27から引用

貨車の最高速度は65km/h

それまでの貨車は、ボギー車で最高85km/hまで出せましたが、二軸車65km/hに制限されていました。
そこで、上述の通り、2段リンクに改造した車両(ワム21,000,並びにトラ1各1両を2段リンク式に大宮工場で改造)同年10月から東海道線で走行試験を行ったところ、最高85km/hまでの速度で安全に走行できることが確認できたので、昭和28年からワム23000(後に、ワム90000に改番)150両が第1陣として改造されることとなりました。

2軸貨車、2段リンク改造のお話_a0091267_11535894.jpg
画像は、ワム23000から改造された、ワム90000 ウィキペディアから参照

改造では、バネの幅並びに枚数も変更することで、上下動に動きをかなり許容したことで、振動特性が大幅に改善され、車輪が摩耗したときでも振動特性は悪くならないため、85km/hでも走行が可能となったが、ブレーキ性能などを考慮して75km/hに抑えられたと記録されています。
昭和29年 鉄道技術の進展 1953 P12に下記のように記載されています。

パネつり装置の改造のほか、パネ自身も従来の基木第6種(幅1OOrnm、厚さ13mm、14枚)を第13種(幅125mm、厚さ13mm、11枚)に変えてより振動性能の改善をはかつてある。これに対する耐速性能試験の結果、左右振動性能は従来のワム23000に比べて格段に改善され特に後者は車輪踏面が摩耗した場合悪性の自励蛇行動を起すのに対し、前者はその傾向が全く認められず、従って少くとも85km/hまで安全に走らせうることが確められた。制動距離の点からは、50両編成の場合75km/hまでは差支えないことが確かめられた。これ等の結果によりワム90000形は差当りワキ列車に混入して東海道および山陽本線で営業運転に使用し、今後長期に亘って実用試験を行うことになった。
こうして、150両が昭和28年度に改造されてから、以後の新製車は石炭車など一部特殊貨車を除き、2段リンク式で製造並びに、従来車の改造が行われることになりました。
ただし、改造工事は経費の関係で昭和34年度でいったん終了することとなりました。
以下に、昭和29年からの年度毎の新製並びに改造両数等の一覧をご覧いただこうと思います。

新製によるもの改造
昭和28年度10150160
昭和29年度11253001425
昭和30年度20601302190
昭和31年度43002364536
昭和32年度175812102968
昭和33年度388417115595
昭和34年度77611507911
合計24713453729050

昭和34年度には和布の150両が改造されて以降、しばらくは貨車の改造は経費の関係も有り中止となりますが、そのあたりは次回にお話をさせていただきます。


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by blackcat_kat | 2020-11-01 13:04 | 貨車


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